路傍の花:ホシアサガオ

草花

ホシアサガオは、アサガオ類の写真を撮影していて、一番雑草を感じたアサガオです。安城市内でも、遊歩道の生垣から、田畑の畔、用水路のフェンス様々な場所に、圧倒的にはびこっているのを見かけました。本種は、可愛らしく咲く花とは裏腹に、西三河地域の大豆・水稲作に被害をもたらす、4種の帰化アサガオ類の一角を占めています。これまで扱ったアサガオ達とは毛色が違う、純雑草の本種について、備忘録として記事にまとめます。

基本情報

学名:Ipomoea triloba
和名:ホシアサガオ<星朝顔>
分類:ヒルガオ科 サツマイモ属
分布:熱帯アメリカ原産。南北アメリカ、アフリカ、アジア、オーストラリアなど、温帯~熱帯に
広く分布し、特に熱帯~亜熱帯に多い。我が国には、1945年以降に渡来したとされる。
移入分布:本州、四国、九州、琉球、小笠原に分布。
形態:成長の早いつる性の一年草。葉は卵円形で葉先は急に尖る。葉は3裂するも事もある。
ツタに似た葉柄のある葉は、長さ2.5〜6cm、葉柄は長さ3~10cm、茎は厚さ約3 mm、
花序を除き、全体に無毛で長さ1〜3 m程になる。花は小さく、淡紅色で中心部は赤紫色を
帯びるものが多い。花の形状は、花冠直径1〜2cmの漏斗形で、花冠を正面から見ると星形。
葉腋から10cm以上の長い花序柄を出し、1~数輪の花を着ける。小花柄にはイボ状の突起が
まばらにある。萼片は、わずかに不揃いで長さ7〜8㎜。果実はやや縦長、球形の蒴果で、
幅約6mm上部に長い毛がはえ、熟しても萼は平開しない。種子は長さ約3.5㎜、黒く熟す。
花期:7月~10月
生息環境:ホシサガオは、草地や道端、耕作地、廃棄場などの荒れ地に生息する。開放的で日当たりの
良い丘の中腹から、日光が部分的にしか差さない比較的密集した森まで、海抜750mまでの
さまざまな生息環境で見ることができる。
英名:Littlebell、Aiea morning glory ※Aiea:ハワイ州アイエア地区と思われる
シノニム:Batatas trilobaConvolvulus trilobusIpomoea blancoi
品種名:
利用:
表1:ホシアサガオについて

観察記録

以上の通り、ホシサガオには、園芸的にも、農作物としても、利用用途が全く見当たりませんでした。まさに雑草です。近くの遊歩道のグミ生垣で見かけたホシアサガオは、生垣の天辺をびっしり覆い、晩秋にも関わらず、次々と小花を立ち上げて、とにかく野性味を感じるアサガオでした(写真1)。

写真1:晩秋、葉が紅葉しても次々花を着けるホシアサガオ 2020/11/21 安城市

ホシアサガオの葉は、ざっと観察した限りでは、心形をしたものを多く見かけました(写真1)。本種は、卵円形~3裂葉まで幾つか異なる形の葉が着くようです(写真2)。撮影時期が晩秋の為、大半の葉は、赤銅色に紅葉しています。生育期は、緑濃くつるつるした葉を密に着けます(写真2中央)。

ホシアサガオは、名前の通り整った星形の花冠を持ちます(写真3上段左)。文献通り、花冠直径1〜2cmの小花ですが、アサガオらしい漏斗状の花弁を持っています(写真3上段中)。しかも、数輪ながら集散花序を形成し、葉腋から長い花序丙を伸ばし多花性です(写真3上段中、右)。文献によると花期は、10月までの様ですが、11月下旬でも次々と小花を立ち上げて、咲き続けていました。

ホシアサガオの萼片について、「わずかに不揃いで長さ7〜8㎜」と文献の記載は微妙でしたが、私が観察した限りでは、個々は長さ7〜8㎜の幅広で切れ込みの浅い萼片で、揃った形状でした(写真3下段左)。反り返り等なく、花弁にピタリとはり着いていました(写真3下段左)。小花柄にはイボ状の突起があるそうですが、観察できませんでした。

ホシアサガオの果実は、文献の記載通り、やや縦長、幅約6mmの球形蒴果でした(写真3下段中、右)。熟した蒴果の上部に長い毛がはえ、熟しても萼は平開しない様子も観察できました(写真3下段右)。ざっと見た限り、開花した花の数だけ蒴果を実らせ、枯れる寸前まで種子生産を続ける様に見受けられました。

ホシアサガオは、巻き付いた物をびっしり覆うように生育します(写真4)。今回ホシアサガオを撮影した、遊歩道でも、あちこちに繁茂しているのを見かけました。が、各群生により、生育段階が異なり、晩秋でも盛んに花を着けている群生もあれば(写真4左)、葉が虫食い状に枯れ落ちて、蒴果をびっしり実らせている群生もありました(写真4右)。左記の通り、同時期の同様な生育環境で、生育段階が異なる群生を、観察出来ました(写真4)。

考察

ホシアサガオは、以上に挙げた振舞から、かなり侵略的な外来種と思われます。実際、本種は、環境省編集の「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」(通称:生態系被害防止外来種リスト)にリストアップされ、「総合対策外来種」に選定されています。生態系被害防止外来種リストを見みると、本種は、植物部門の選定基準Ⅳ、Ⅴを満たし「総合対策外来種」に選定されました。

生態系被害防止外来種リスト「総合対策外来種」の選定基準
  • I.生態系被害のうち交雑が確認されている、又はその可能性が高いもの。
  • II.生物多様性の保全上重要な地域で問題になっている、又はその可能性が高いもの。
  • III.人体に重篤な被害を引き起こす、又はその可能性が高いもの。
  • IV.生態系被害のうち競合又は改変の影響が大きく、かつ分布拡大・拡散の可能性も高いもの。
  • V.生態系被害のほか、人体や経済・産業へ幅広く被害を与えており、かつ分布拡大・拡散の可能性もあるもの。

  注)生態系被害防止外来種リスト選定基準(植物)以上、I~Vに1つ以上該当する種類が、リスト掲載対象

リストによるとホシアサガオの「総合対策外来種」としての定着段階は、[分布拡大期~まん延期]で、カテゴリは、[その他の総合対策外来種]との事です。少し調べると、2008年頃、沖縄島中部で見つかった本種について、その後の分布拡大と繁殖力の強さへの懸念を記載したブログ記事等、枚挙にいとまなく、「総合対策外来種」への選定は、妥当な対処だと思えます。

ここまでの経緯から、総合対策外来種ホシアサガオが、愛知県に及ぼす影響を調べてみました。農業総合試験場の技術情報によれば、1990年代後半から西三河地域の大豆作(一部、水稲作の情報も含む)において、帰化アサガオ類の発生が確認されはじめ、現在では山間部を除く県内のほぼ全域に発生しています。そして、ホシアサガオは、愛知県下で発生する4種類の帰化アサガオ類の一角を占めます。愛知県下で見られる帰化アサガオ類については以下参照

愛知県下の大豆圃場で発生する帰化アサガオ類4種
  • アメリカアサガオ(Ipomoea hederacea)※含むマルバアメリカアサガオ(Ipomoea.hederacea var.integriuscula)
  • ホシアサガオ(Ipomoea triloba
  • マメアサガオ(Ipomoea Lacunosa)
  • マルバルコウ(Ipomoea coccinea)

ホシアサガオは、特に安城地区においてアメリカアサガオに次いで、大豆圃場での発生頻度が高く(2004年、現地調査)、大豆作に相当な被害を与えているとの事。帰化アサガオ類の発生が、大豆作(含む水稲作)に与える被害については、以下参照

帰化アサガオ類の発生が大豆作(含む水稲作)に与える被害内容
  • 大豆収穫用コンバインへの絡みつきによる作業能率低下
  • 帰化アサガオ類の繁茂による莢付の減少⇒収量の減少
  • 帰化アサガオ類の繁茂による大豆の倒伏⇒収穫不可能
  • 収穫作業中に飛び散った帰化アサガオ類が大豆に付着⇒汚粒の発生による品質低下
  • 水稲作で発生した場合、玄米に帰化アサガオ種子が混入⇒異物混入による品質低下

特に今回はホシアサガオで、同時期の同様な生育環境で、生育段階が異なる群生を観察できました。このように、年に複数回の発生と再生産(しかも大量結実)を繰り返すサイクルは、帰化アサガオ類全般で見られる様です(図1)。よって、一度圃場で帰化アサガオ類の発生が確認された場合、開花・結実前を見計らって、防除も複数回行うことになります(図1)。このように防除に多大な労力を要する事が、ホシアサガオをはじめとした、帰化アサガオ類の圃場への侵入・拡大の阻止を困難にしているのだと思います。

図1:帰化アサガオ類の発生と再生産の年間サイクル(熊本県農業情報サイト「アグリくまもと」技術と方法「大豆ほ場の雑草防除技術」より引用)

ホシアサガオは、写真の通り小花を次々咲かせて、見ていて可愛らしいものですが、現状の大豆圃場への被害等を鑑みると、一般人が安易に採集・栽培してはならない、禁忌種なのだと、今回の記事をまとめるにあたり、つくづく思い知らされました。

参考文献

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