路傍の花:ノアサガオ ‘オーシャンブルー’

草花

前回のブンリーブルーの資料を集める過程で、このノアサガオ ‘オーシャンブルー’についての知見も一緒に集まっていました。両者は全然違うアサガオなんですが、あるサイトでは比較して、あるサイトではごっちゃにして紹介されていました。ノアサガオについて調べてみると、本種自体も、強烈な個性のあるアサガオでした。たまたま写真を撮影する機会もあり、集まってしまった知見の整理もかね、備忘録として記事にまとめます。

基本情報

学名:Ipomoea indica
和名:ノアサガオ<野朝顔>、別名:リュウキュウ(琉球)アサガオ、シュッコン(宿根)アサガオ
分類:ヒルガオ科 サツマイモ属
分布:熱帯・亜熱帯域全般で広く栽培されているため、在来種としての正確な分布は不明。
現在、ほとんどの専門家は、米国南部のフロリダからメキシコ、中央アメリカ、カリブ海、
南アメリカに至る新熱帯区に自生していると考えている。 また、ハワイ諸島(ハワイのネイ
ティブ名はコアリアワ<koali awa>)、フランス領ポリネシア、ミクロネシアなど、パラオを
含むいくつかの太平洋の島々に自生していると言われる。他方、本種が米国、メキシコ、
およびそのカリブ海と太平洋域の一部では、導入種か、或いは侵入種だと考える専門家もいる。
その他、広東、海南、台湾、インドネシア、日本、マレーシア、ミャンマー、ニューギニア、
パキスタン、フィリピン、スリランカ、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカ等の
環熱帯域で栽培され帰化植物になっている。本種は、我が国に自生、或いは古くに帰化したと
考えられる在来系と、今回紹介するオーシャンブルーの様な、外来系に分けられる。
在来系の国内分布:伊豆諸島、紀伊半島、四国、九州、南西諸島、小笠原諸島
形態:つる性の多年草。つるの軸は毛に被われ、地際から成長するにつれ、他の植物、壁、斜面を、
覆うように這い登り、長さ10数mに達する場合もある。つるは、ねじれながら時々匍匐し、
軸部分には後向きにトリコーム(毛状突起)が密生する。匍匐茎の節間は3~6cmになり、
節から発根している事もある。葉は長さ5〜15cm、葉柄は長さ2~18cm、葉身は心形または
3裂して基部は心形で、先端は急に尖る。花は花冠の直径5〜8cmの漏斗形で光沢があり、
明るい青~青みがかった紫色で、花冠の中心部は淡く、時間が経つと赤紫色~赤になる。
直線状~槍状の苞葉を持ち、花茎の長さは2~5mmと短い、萼片は均一で、長さは1.4~
2.2cm、直線的で反り返らず先は尖る。多花性で、幾つかの花からなる密な集散花序を形成し、
花序柄は4~20cmほどになる。果実は直径1~1.3cmの球形で上向きにつき、約5mm程の
種子を6個つける。しかし、本種は強い自家不和合性を示し、めったに結実しない(但し、
地域の異なる系統同士の交配では、良く結実する)が、周囲に伸ばした匍匐茎から発根し
容易に栄養繁殖する。
花期(オーシャンブルー):6月下旬~晩秋、花期が長く、霜が降りる頃まで咲き続ける。
花期(在来系):4月~11月
生息環境:ノアサガオは、海岸近くの草地や崖などに生える。花色が美しいため、熱帯・亜熱帯で広く
観賞用に栽培されている。7°C未満の温度には耐えられないため、温帯地域では温室下で
栽培される。本種は保水力があり、軽く腐植質の多い肥沃な土壌を好む。
英名:blue dawnflower、blue morning glory、oceanblue morning glory
シノニム:Convolvulus acuminatusIpomoea acuminataIpomoea congestaIpomoea learii
品種名:Ipomoea indica ‘Ocean Blue’
利用:ノアサガオは、普通のアサガオに比べ、強健で非常に育てやすく、多花性でつるも10m以上
伸びることから、緑のカーテンとしての利用に適している。本種は、繁殖力が旺盛で、匍匐茎
(ランナー)を伸ばして、周囲に広がる性質から、温暖な地方では自然界に逸出して、雑草化
する危険性があり、栽培管理には、注意を要する。オーシャンブルーは、ノアサガオの
突然変異とされる、代表的な園芸品種である。
表1:ノアサガオについて

観察記録

以上の通り、ノアサガオは、相当に強健なアサガオです。路地で見かけたオーシャンブルーは、濃くびっしり着いた葉と次々立ち上がる花で、圧倒的な勢いが感じられるアサガオでした(写真1)。

写真1:多花性で勢いがあり花色の移ろいが激しいオーシャンブルーの花、2020/11/7 安城市

オーシャンブルーの葉は、色濃くびっしり着きます(写真2上段左)。本種の葉は、緑濃く10cmを軽く超える心形、葉脈がくっきり浮き、まばらに毛で覆われ、ごつごつしており(写真2上段中)、つるっとしたヘブンリーブル―の葉と好対照です。支柱になっているトレリスを覆いつくし、フェンス側へあふれた本体から、更にフェンス外に伸びたつる(写真2上段右)若い葉が互生し、葉腋から集散花序が出芽し始めています。

晩秋にも関わらず、青々としたオーシャンブルー(写真2下段)、写真中央は、毛に覆われた集散花序、多数の花が咲き終えても結実の兆しなし。集散花序の直下に伸びた花序柄と暴れて巻き付いたつる、どちらもトリコームが発達し毛に覆われる。集散花序の後方は、葉身3裂タイプの葉、三方が尖る以外は心形タイプの葉と同じ形態(写真2下段:写真を集めきれず、一枚の写真で引っ張っています、、すいません。。)

オーシャンブルーの集散花序について、先端の花から順次咲く間に、蕾が次々分枝、隣接して成長しながら立ち上がって来る事から、同じ多花性のヘブンリーブル―に比べて、開花数も多く密集して咲くように見受けられました(写真3:上段左⇒右⇒下段右⇒左)

花軸が分岐して複数の花を着ける有限花序の内、花軸先端の成長が止まって花がつき、その下から枝が出て花をつけることを繰り返す花の付き方のこと。
※花が花軸の頂部から下方へ、または中心から外側へと順次咲いていく咲き方。最後に生じた頂部の花がまず咲いて、花の数を限定するので、有限という。

オーシャンブルーの萼について、ほぼ基本情報に挙げた形態通り、観察できました。他のアサガオ類と比較したとき、本種の萼は、以下の特徴を持つようです(写真3上段左)。

萼の特徴:オーシャンブルー
  • 幅狭く直線的に深く切れ込む
  • 先端は細く尖る
  • うすく毛に覆われる
  • 花弁にフィットして、反り返らない

オーシャンブルーの花も、先日報告したヘブンリーブルーと同様に、時間経過で色合いが変化する様です。今回、撮影時間はすべて昼頃だったので、時間経過による色変化は観察できませんでした。しかし、安定して青かったヘブンリーブル―と違い、オーシャンブルーの花は、昼頃の同じ時間帯でも青みがかった赤~ピンク色まで(写真4上段左、上段右)、一輪ごとに複雑な色合いで咲いていました(写真4下段)。また、蕾としおれた花では、ヘブンリーブル―と同様に赤色でした(写真4下段)。

オーシャンブルーの果実について、花が咲き終えたと思われる集散花序を、見て回りましたが、結実したと思われる蒴果は、見つかりませんでした。一般的にノアサガオは、強い自家不和合性を示し、めったに結実しない事が知られています。蒴果が、見つからなかったのは、知見通りのようです。

被子植物の自家受精を防ぐ、数種類の遺伝的性質の総称のこと。ある植物個体の正常に発育した花粉が、同じ個体の正常な柱頭に受粉しても、受精に至らないこと、あるいは正常種子形成に至らないことを自家不和合と呼ぶ。

考察

基本情報にまとめた通り、ノアサガオは、複雑怪奇な生物学的特徴と歴史を持つアサガオです。そもそも元々の分布域が、不明瞭で現状では、熱帯アメリカを中心に熱帯・亜熱帯域に広く分布するらしいとぼやかした言い方しかできないと思います。我が国においても、紀伊半島以南や南西諸島などに、在来系と言われる由来のはっきりしない系統が自生しています。これらについて、在来種だと記載のあるリストが一本だけ閲覧でき、渡来歴など帰化種の旨、解説した資料は見つけられませんでした。

在来系ノアサガオとオーシャンブルーは、交雑可能なので、お互いに遺伝的な隔絶のある地域個体群くらいには異なる系統なんでしょうか?両者の違いについて亜種として記載できる程なのか、地域変異としての違いなのか、述べた文献も見つけられませんでした。調べていて興味深かったのは、同種であるはずの、在来系ノアサガオとオーシャンブルーで、扱いに雲泥の差がある事です。

在来系ノアサガオは、沖縄など西南諸島では、厄介な雑草として扱われる事もあるようです。が、ほかの地域、具体例を挙げると、長崎県の「脇岬ノアサガオ群落」は、その自生地が、県指定天然記念物として、保護されています。一方、オーシャンブルーをはじめ、外来系ノアサガオは、緑のカーテン等、園芸植物として積極的に活用されています。が、環境省の総合対策外来種としてリストアップされ、それら外来種の中でも、特に危険度が高い、重点対策外来種(甚大な被害が予想されるため、対策の必要性が高い)に指定されています。

神川県の例では、自然界に逸出したオーシャンブルーが、人家周辺から海辺の崖や林縁部まで覆いつくし、侵略的外来種として問題になっています。さらに、野生化した外来系ノアサガオとの間に、種間雑種ができる為、在来系ノアサガオの遺伝的攪乱の可能性も指摘されています。両者は、そもそも同種の系統違いなだけなのですが、片方を保護し、片方を排除する羽目になるのは外来種対策の難しさなのだと思います。

参考文献

コメント

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