路傍の花:セイヨウタンポポ(おそらく雑種)

草花

セイヨウタンポポは、道端によく見かける帰化植物ですが、近年は在来のタンポポとの間で熾烈な競争を繰り広げているようです。安城市内では、本種とシロバナタンポポが競合する生息地があり、周年咲いて、大量の種子散布を行う本種が、シロバナタンポポを圧倒しておりました。

基本情報

学名:Taraxacum officinale
和名:セイヨウタンポポ<西洋蒲公英> 別名:ショクヨウタンポポ<食用蒲公英>
分類:キク科 タンポポ属
分布:セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)は、キク科タンポポ属の多年生草本。
ヨーロッパ原産の帰化植物。北アメリカ、南アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、
ニュージーランド、インド、日本に外来種として 移入分布する。日本には北海道開拓時代
(1800年代後半)に、札幌農学校アメリカ人教師ペン・ブルックスが サラダの材料として、
日本に持ち込み、これが野生化したと いう説が有力である。国内分布:ほぼ全国
形態:キク科タンポポ属の多年草。直根の多年生植物で、基本的に生育型はロゼットを形成する。
環境省指定要注意外来生物。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。
 日本の在来種とは、外総苞片の反る点が異なる。総苞は高さ2cm,外総苞片は色が淡く,
下方へ反り返り(在来タンポポ類では反り返らない)、内片は濃緑色で直立する。いずれも
角状突起が無い。葉は長さ5~45cm、幅1~10cmで、楕円形または卵形で、基部は葉柄に
向かって徐々に狭くなる。葉の縁は通常、鋸歯状や羽状に深裂し変化が大きい。
 花はあまり季節を問わず、鮮黄色の頭花を長期間にわたって咲かせる。花茎は中空で葉を
つけず、高さ10~30cm。花茎は真っ直ぐ伸び、先端に径3.5~4.5cmの頭花を一つ付ける。
 頭花は、黄色い小花が多数集まって形成され、すべて舌状花である。舌状花が形成する
花冠は、黄色または橙黄色で、中央の花柱部は黄色である。果実(痩果)は長さ2.5~4mm,
灰褐色~茶褐色。長いくちばしの先に白色毛状の冠毛がつく。
 T.officinaleは、ヨーロッパにおいて活発な雑草であり、南部地域では2倍体の個体群があり、
中部および北部地域では、2倍体の個体群と3倍体または4倍体のアポミクト(アポミクシスに
よって繁殖する植物個体群)が部分的に重複している。日本に定着したセイヨウタンポポは
3倍体で、単為生殖で種子をつける。花粉に関係なく、受精を伴わない種子生産(無融合
種子形成、Agamospermy)を行う為、繁殖力が強く、都市部を中心として日本各地に広まり、
特に近年の攪乱が多い地域を中心に分布を広げている。本種の舌状花は、頭花あたり最大で
100個を優に超え、他の在来種よりも多い。ゆえに結実する種子も比較的多くなり、頭花
あたり54から172の種子が生産され、1個体で年間5,000以上の種子生産が可能である。
 最近になって日本では、セイヨウタンポポと在来タンポポの雑種が発見され、新たな問題
として注目されている。セイヨウタンポポは、無融合種子形成と呼ばれる単為生殖であり、
不完全な花粉しか作らないので、雑種の形成はあり得ないと考えられていた。ところが
セイヨウタンポポの作る花粉の中に、nや2nの染色体数のものができると、在来種の
タンポポと交配して雑種ができる可能性があり、現に在来タンポポとの雑種が、あちこち
に生育していることが確認された。日本のセイヨウタンポポの8割以上は在来タンポポとの
雑種との報告がある。このような雑種では、外総苞片は中途半端に反り返り、その区別は
簡単ではない。雑種は反曲した総苞片の先端にこぶ状の突起があり、また総苞片の縁の
毛も多い傾向があるといわれている。愛知県において、雑種性のものは1980年代末から
増加したと推定される。現行の愛知県内では、純系のセイヨウタンポポの確認は極めて
稀で、一般にセイヨウタンポポと思われているものは、大部分が在来タンポポの遺伝子を
取り込んだ雑種である。
花期:安城では周年(主な花期には諸説あるが、安城では3~5月が適当と思われる)
生息環境:世界の温帯地域の芝生や、道端、荒れた土手、水路の岸、その他の湿った土壌のある
地域に生息する。特に芝生や道端の雑草として見かけることが多い。
英名:dandelion、common dandelion
シノニム:Crepis taraxacum、Leontodon taraxacum、Taraxacum campylodes
品種名:
利用:古くからヨーロッパや中東では食用にされており、多少の苦味があるが若葉はサラダや
ハーブティーなどに用いる。また、根を乾燥させて炒ったものがコーヒーの代用品
(たんぽぽコーヒー)として知られており、ノンカフェイン飲料として煎じて飲まれる。
食欲増進や肝機能向上に効果があるとされる。アメリカ合衆国の一部では、花弁が、
タンポポワインの原料として用いられる。
表1:セイヨウタンポポについて

観察記録

セイヨウタンポポは全国に分布し、安城市内でも、芝生や土手、道端などいたるところに群生しています。以下は国道沿いの草地に定着したセイヨウタンポポの群生です(写真1)。極端なロゼット型の生育をすることが多いためか、ある程度、手入れの入る芝生地で良く繁茂しています(写真1#1)。

特に日当たりの良い、まとまった芝生地があると、おびただしい数のセイヨウタンポポが、大繁茂しています(写真1#2)。

セイヨウタンポポの葉は、他のタンポポ類と同様、基本的にロゼットを形成し、長さ5〜45cm、幅1〜10cmの楕円形または卵形で、葉の縁は通常、鋸歯状や羽状に深裂します (写真2#1,#3,#5)。前回、紹介したシロバナタンポポ(写真2#2,#4,#6)よりも季節による葉身の形状変化も緩く、如何にもタンポポらしい形態の葉で、特に際立った特徴はありません。

周年ロゼット形態を崩さないセイヨウタンポポは、同じ場所に生息するシロバナタンポポ(葉が斜めに立ち上がる(写真2#4)性質がある)に比較しても、目立った特徴は見受けられません。その草姿は、いわゆる普通のタンポポですが、真冬の葉は紅葉して、なかなか綺麗です(写真2#5)。

安城のセイヨウタンポポの花は、主な花期である春(3~5月)を中心に、周年咲くようです(写真3#1,#3)。本種も、他種タンポポと同様に、多数の小さな黄色い舌状花からなる頭花を、花茎の先に一つ付けます(写真3#1,#3)。

本種は繁殖力が強く、頭花当たり100を優に超える舌状花を付けるようです。春の頭花を見ると100個以上の舌状花があり(写真3#1)、冬の頭花でも花付きは疎らになるものの、かなりの量の舌状花を付けます(写真3#2)。本種が周年咲く事を考慮すると、種子生産力は文献通り圧倒的だと思われます。

一方、同じ場所に生息するシロバナタンポポは、頭花当たり最大で100個程の舌状花を付け(写真3#2) 、春期以外の頭花は、春のものより一回り小さく舌状花も減少します(写真3#4)。セイヨウタンポポに比べると、春の頭花でも舌状花は疎らで(写真3#1,#2)、適期外に開花した頭花では、目視でおよそ半分程の舌状花しか付けていないように思われます(写真3#3,#4)。種子生産における競合では、シロバナタンポポはセイヨウタンポポから、かなりの圧迫を受けていると思われます。

セイヨウタンポポの花茎は、ロゼットの中心辺りから根生し、総苞に包まれた頭花を一つ付けます(写真4#1)。本種の特徴である外総苞片は淡色を呈し、この頃から下方に反っています(写真4#1)。頭花が開花間近になると、総苞もよく発達し、内片(総苞の内側を構成する総苞片)は濃緑色で直立し、2cm程に伸びて頭花を支え、外総苞片はさらに反り返って下方で交差します(写真4#2)。

頭花が満開になると舌状花が密に付くためか、外側の舌状花が押し出されるように垂れ下がり、大輪菊に似た球状の咲き方になります(写真4#3)。この時の総苞は観察できませんが、内片の先方は頭花の広がりに沿ってさらに開き、頭花を支えていると思われます。外総苞片は特に変化なく反ったままです(写真4#3)。頭花が咲き終わると総苞が閉じて、花茎は地面に倒伏し始めます(写真4#4)。

枯れた舌状花が抜け落ちて、種子(痩果)と冠毛が発達した総苞(写真5#1)は、再び花茎を伸ばしながら一直線に立ち上がります。そして、総苞が全開し綿帽子が出現する頃には、外総苞片は枯れて、続いて内片の順に枯れ上がっていきます(写真5#2)。

セイヨウタンポポの花茎も、他のタンポポ類と同様、頭花発生から綿帽子の展開まで、倒伏と起立を繰り返しながら発達します(写真5#3)。観察した日向の芝生地では、基本的にロゼットを崩さず、周年短い花茎を斜め上方に伸長し、頭花は低い位置で開花することが多かったです(写真6#1,#2)。

セイヨウタンポポを、同じ場所に生息するシロバナタンポポと比べると、ロゼット型のコンパクトな草姿をしています(写真6#3)。また、花茎などを短くまとめる代わりに、一株あたりの着花数が多くなる傾向が見られました。写真6#3の例ではシロバナタンポポ4株で頭花数4個に対し、セイヨウタンポポ1株で頭花数4個で、一株当たりの着花数は4倍でした。

セイヨウタンポポの果実は、痩花と言われ薄く乾いた果皮が、種子と一体になった形態です(写真7#3)。本種の舌状花は、他のタンポポ類よりも多い上、単為生殖を行うので結実数も多いです。痩果が花托にびっしりと付く為か、付属する冠毛も四方に広がり、綿帽子は球状に展開します(写真7#1)。同じ場所に生息する、シロバナタンポポも、単為生殖で結実率は高いですが、頭花に付く舌状花が少ない(写真3#1,#2)為、満開の綿帽子でも、セイヨウタンポポの半分程のボリュームしかありませんでした(写真7#1,#2)。

綿帽子の内部の様子ですが、主な花期である春に、種子散布途中の綿帽子を撮影できませんでした。写真7#3は、全体の1/4程の種子散布が終わった、真冬のセイヨウタンポポの綿帽子です。花托の周囲に褐色の痩果がみっしりと付き、大量の種子が生産されています。

季節の近い晩秋のシロバナタンポポも花托に多数の痩果が付きます(写真7#4)が、セイヨウタンポポ(写真7#3)と比較するとかなり疎らでした。また、セイヨウタンポポの痩果は、他のタンポポ類よりも小型な為、散布されやすいとの記載がありましたが、シロバナタンポポとの比較では、痩果の大きさに極端な差は見られませんでした(セイヨウタンポポの方が若干小さい?)(写真7#3,#4)。

セイヨウタンポポは、綿帽子段階で花茎が最長になります(写真8#1,#2)。充実した株では、ロゼット型を保って丈の低い株本体に対し、花茎は種子散布が終わり花托だけになった状態で、最長30cm程あり立ち上がる本数も多い為、全体の草姿はアンバランスな印象になります(写真8#1)。

セイヨウタンポポは年間を通じて、頭花発生から綿帽子の展開まで、倒伏と起立を繰り返して伸長する生態は変わりません。しかし、季節により綿帽子を展開して種子散布を行う時の、花茎の長さに幅があります。本種の花茎は、主な花期である春では20~30cm程の長さになり、冬では大体が10cm未満でした。本種の花茎は春と冬で、花茎の長さに2~3倍以上の開きがありました(写真8#1,#2)。

タンポポ類の各部位名称について、キク科植物向けの専門用語が多く分かりにくい為、以下に用語集をまとめました。ご活用いただければ幸いです。

「タンポポ類の各部位名称について」に飛びます。

考察

セイヨウタンポポは、原産地ヨーロッパでは、有性生殖を行う2倍体タイプと無融合生殖を行う3倍体タイプがあるそうです。日本には、3倍体タイプのものが定着し、単為生殖で繁殖したクローン体が、あちこちで繁茂していると言うのが、少し前までの定説でした。

しかし近年、セイヨウタンポポと区別がつかない外見を持つ、セイヨウタンポポと在来タンポポの交雑で生まれた、雑種タンポポが幅を利かせていることが判ってきました。国内のセイヨウタンポポの8割以上(数字は文献により差有り76~95%)が、雑種タンポポだったとの記載もあります。なので、今回、安城市内で観察したセイヨウタンポポも、おそらく雑種タンポポだと思われます。

では、雑種タンポポには、何か特徴があるのか?外総苞片の反り方にバラつきが出る以外は、特に際立った特徴は無さそうです。そもそも、遺伝子レベルの解析を行わないと正確な識別ができない為、雑種タンポポの存在が見逃されていた経緯もあり、生態観察に関わる注意事項はなさそうです。よって今回の記載では、観察したセイヨウタンポポの雑種性について、特に考慮していません。

我が国のタンポポ類には、外来のセイヨウタンポポとその他、在来タンポポの間に競合があることが知られています。定期的な撹乱が入る市街地では、セイヨウタンポポが優勢となり、季節により繁茂する他植物との競合が起こる郊外では、在来タンポポが優勢となって住み分けるそうです。愛知県でもセイヨウタンポポ(雑種性も含める)と在来タンポポについて、名古屋圏の市街地から郊外にかけて、分布調査が定期的に行われ、同様の住み分けが起こる事が知られています。

同じ愛知県下の安城市でも、セイヨウタンポポと在来タンポポの住み分け的なものが、観察できそうでした。安城は田舎町ですが、ざっと見た感じではタンポポ類の分布状況は、市街地の様相を呈し、いたる所にセイヨウタンポポが繁茂していて、頑張って探しても在来タンポポは、殆ど見られませんでした。今回、観察場所にした国道沿いの草地の一画に、辛うじてまとまった数の、シロバナタンポポが群生しているのを見つけたので、セイヨウタンポポとの比較をしてみました(写真6#3)。

セイヨウタンポポは、タンポポ類の典型的な草姿である、ロゼット型を基本とします(写真5#3)。春の結実後に伸長する花茎(写真8#1)と真冬の紅葉期(写真2#5)以外は、周年ロゼット型の草姿に大きな変化は見られません。一方、同じ場所に生えるシロバナタンポポでは、春先からロゼット型が崩れ始め、葉先は斜め上に立ち上がって、花茎も頭花が開花する頃には、かなり伸長します(写真6#3)。両者を比べると全体の草姿は、セイヨウタンポポの方が、シロバナタンポポより一回り小さく見えます(写真6#3)。

セイヨウタンポポは、在来タンポポと違い、夏に休眠する事も無く周年花を着け続けます。本種の頭花は他のタンポポ類と同様、頭花発生から綿帽子の展開まで、花茎の倒伏と起立を繰り返しながら発達します(写真5#3)。綿帽子を付けて伸び切った花茎でも、20cm前後で納まる(写真5#3)事が多いが、主たる花期である春の充実した株では、最長30cm程の花茎が見られました(写真8#1)。

しかし、日照条件のよい日向の芝生地や春以外の季節の各個体は、斜め上方に伸ばした高さ5cm程の花茎の先に頭花を着け(写真6)、最大10cm以内の伸長に留めた花茎の先に綿帽子を展開する(写真8#2、写真9)傾向があります。全体をコンパクトにまとめる代わりに、頭花のサイズ(写真3#1,#3)や着花数(写真6#3)、花托に付く種子数の維持(写真7#1,#3)にエネルギーを振り分けている様に見受けられました。本種は、侵略的外来種に指定されるだけあり、際立って種子生産に注力する種なのだと思われます。

セイヨウタンポポは、シロバナタンポポより体が小さいく草丈も低いからか、背丈のある雑草との競合を回避する傾向が見られました。その代わり、繁殖にエネルギーを割いているように見受けられます。セイヨウタンポポは、シロバナタンポポより一株当たりの着花数も多く(3月末に目視した限りでは3~4倍)(写真6#3)、頭花も充実し開花期間も長く(ほぼ周年)なります。関連して綿帽子も充実(4月に目視した限りでは2倍)しており(写真7)、花托に付く痩果量が多い(写真7#3,#4)上、周年開花する為、種子生産力でもシロバナタンポポを圧倒していると思われます。

以上を踏まえて観察場所を見ると、シロバナタンポポの優勢な場所は、土手状の緩やかな傾斜地のみで、土地が平らで頻繁に草刈り機が入る草地や、歩道の周囲等では、セイヨウタンポポが圧倒的に優占しています。全体ではセイヨウタンポポが苦手な、傾斜地に入り込んだシロバナタンポポにより細々と維持されている群生が、ガンガン種子を作って繁殖するセイヨウタンポポの大群生内で、孤立するという住み分け状況でした。

参考文献

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