路傍の花:ヒルザキツキミソウ

草花

前から近所のあちこちの植込みに、明るいピンクの花が咲いて気になっていました。ここ数年は国道沿いの植込みに、大繁茂してして凄く目立っています。調べてみると、ヒルザキツキミソウと言う帰化植物でした。本種は待宵草の一種ながら、真っ昼間から一斉に咲くなど、変った特徴を持っています。

基本情報

学名:Oenothera speciosa (淡紅色の変種:Oenothera speciosa var. childsii が、
花色(白、淡紅色)の区別なくシノニムとして統合された)
和名:ヒルザキツキミソウ<昼咲月見草> 別名:エノテラ、モモイロヒルザキツキミソウ
分類:アカバナ科 マツヨイグサ属
分布:アカバナ科マツヨイグサ属の多年草本で、北アメリカ原産の帰化植物。
大正末期ごろ観賞用に渡来し、現在では日本各地に野生化しているものもある。
北米では、ミズーリ州とネブラスカ州からカンザス州、オクラホマ州、
テキサス州を経て、メキシコ北東部の中央草原に自生する。※米国農務省(USDA:
United States Department of Agriculture)サイトに分布図が公開されている。
形態:一般名が示すように、ほとんどの各種月見草は夕方に花を開き、毎朝早く
閉じます。「昼咲月見草」は、夜だけでなく昼間も花を開いていて、ツキミソウ
(O. tetraptera)に似ていることによる。花は白色または淡紅色で直径約5cm、
つぼみのときは下を向いているが、開くと上を向く。花弁は広倒卵形で、
基部は黄色を帯びる。花が白色のものもしぼむと淡紅色になる。花が初めから
淡紅色のものを、変種モモイロヒルザキツキミソウ(var.childsii)として分ける
場合もある。花被片は4個、長さ25~40㎜、長さ25~40㎜、雄しべは8個、
雌しべの柱頭は十字形。花弁のすぐ下に萼片が4個あり、片側へ捲れ上がる。
萼片は長さ15~30㎜。長さ10~23㎜の花托筒があり、下部の子房につな
がっている。長い花托筒がマツヨイグサ属の特徴。果実は蒴果だが、
日本では結実しにくい。茎は白い短毛が多く、高さ30~60cmになる。
茎の下部は木質化することが多い。葉は互生し、長さ5~7cmの線状披針形で、
ふちには浅い鋸歯がある。茎の下部の葉は羽状に浅く裂ける。
北アメリカでは、自然分布の南部にあるピンク色の個体群は、朝に花開き、毎晩
閉じる。さらに複雑なことに、その北部の個体群は夕方に花開く傾向がある。
花期:5~8月
生息環境:野生株の生息地には、岩の多い草原、開けた森林地帯、斜面、道端、牧草地、
荒廃した地域が含まれる。本種は、魅力的な園芸植物になりえるが侵略的で、
ランナーや種子によって広がる可能性があるため、注意が必要である。
本種は干ばつに強く、緩く水はけのよい土壌と十分な日当たりを好みます。
英名:pinkladies, pink evening primrose, showy evening primrose, 他多数
シノニム:Hartmannia speciosa, Oenothera speciosa var. childsii, 他多数
品種名:エノテラ(園芸でツキミソウの仲間を扱う時の総称として)
※ヒルザキツキミソウはエノテラに含めないとする文献もある
利用:園芸植物として、鉢植え、花壇、グランドカバー等に利用される。
植物体の緑部分を調理したり、サラダとして食用にされる。花が咲く前に
収穫すると美味しいらしい。
表1:ヒルザキツキミソウについて

観察記録

安城市では、ヒルザキツキミソウは国道脇の植込みによく植栽されています。観察してみると、植込みから歩道側や車道側に逸出して、形成された群生の方がよく繁茂しているようでした(写真1#1)。

また空き地や休耕地等、ある程度の広さのある場所に自生するヒルザキツキミソウは、かなり大きな群生を形成します(写真1#2)。但し、少なくとも安城では、自生地の一画を優占しますが、シロツメクサやセイヨウタンポポのように、全面を覆う程に繁茂する事は無いようです。

ヒルザキツキミソウの花は、基部が黄色で白または淡紅色の花被片が4個、長さ25~40㎜、雄しべは8個、雌しべの柱頭は十字形と記載されます(表1)。安城で見た本種は、基部が黄色で淡紅色の花被片(写真2#1~#3)で、4個(写真2#2,#3が明瞭)大きさは記載通り(写真2#1~#3)でした。雄しべは8個(写真2#1,#2が明瞭)で記載通り、淡黄色で開花時から葯が裂開し花粉が出ていました(写真2#1~#3)。雌しべは白色で、記載通り先端が十字形(写真2#1,#3)でした。

ヒルザキツキミソウには白花もあるはずですが、今回の観察では見つかりませんでした。写真に撮った中で一番白い花は、写真2#3ですが薄桃色でした。また花の形態について、同じ場所に生息する同属のコマツヨイグサ(O.laciniata)の花は、本種と同様な形態(花被片4個、雄しべ8個、雌しべ柱頭は十字形)を持っていました(写真2#4)。

ヒルザキツキミソウは、花弁のすぐ下に萼片が4個あり、長さ15~30㎜で片側へ捲れ上がります(表1)。文章では分かりにくいですが、写真3#5黄丸のような形状になります。これは、開花時に萼片の1か所のみ裂開し(写真3#1,#2)その後、花弁の伸長に従って鞘状態のまま(写真3#3)萼片がズレ落ちるように開花するため、片側に捲れ上がる状態になるようです。因みに同属のコマツヨイグサは、開花時は全萼片が裂開して反り返り(写真3#4赤丸)ごく一般的な形状の萼になります。

ヒルザキツキミソウには、長さ10~23㎜の花托筒を経て子房につながっています(写真4#1)。この長い花托筒がマツヨイグサ属の特徴に挙げられています。そこで、本種と生息地が重なり同属のコマツヨイグサの花托筒(写真4#2)と比較すると、両者に共通する形態(写真4#1,#2赤黄丸)であることが観察できました。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

※用語について
  • 花托筒(hypanthium または floral cup):被子植物において、萼、花冠、雄しべの基部が、カップ状の管を形成する構造。多くの場合、植物の蜜腺が含まれている。構造の寸法や外観は異なるが、多くの植物科に存在する。

ヒルザキツキミソウは、日本での結実は稀なようです。大部分は開花後、花托筒から上が落ちると子房が、黄色く変色して縮んでしまい(写真5#1黄丸)結実しません。しかし、よく探せば見つかる様なので、観察できる範囲で結実株を探しましたが、見つけられませんでした。対して同じ場所でみつかるコマツヨイグサは、良く結実していました(写真5#2赤丸)。

ヒルザキツキミソウの茎は、記載通り白い短毛に覆われて、概ね高さ30~60cm程度でした。本種の茎は、直立または斜め上に立ち上がる(写真6#1,#2)事が多く、匍匐する茎はあまり見られませんでした。本種の茎下部は木質化することが多いそうですが、大株根元の木質化を数例観察しただけでした(写真6#3黄丸)。

因みに同属のコマツヨイグサの茎は、本種より多くの短毛に覆れ、地面を匍匐し良く分枝して地表に広がっていました(写真6#4)。

ヒルザキツキミソウの葉も、記載通りの特徴が観察できました。葉は互生し、概ね線状披針形で縁には浅い鋸歯があり(特に茎上部の葉)長さも概ね5~7cm位でした(写真7#1黄丸)。茎の中部の一回り大き葉は、先が尖って下側の鋸歯の切れ込みが深くなり逆三角形様の形状でした(写真7#2黄三角)。

さらに下部の葉は羽状に浅く裂けるとの記載通り、大きめの鋸歯が緩く入りタンポポの葉に似た羽状形(写真7#3)でした。また、今の時期は枯れ落ちている事が多いですが、最下部は羽状形の葉がロゼットを形成していました(写真7#4)。

因みに同属のコマツヨイグサの葉も、茎上・中・下部とも、概ねヒルザキツキミソウと同様の形態でした。コマツヨイグサの方が鋸歯の入り方が浅く、よりのっぺりしていました(写真8赤丸、写真上側が株元になります)。

写真8:コマツヨイグサの茎上・中・下部の葉、写真上側が株元 2023/5/2 安城市

考察

ヒルザキツキミソウの花色について

ヒルザキツキミソウは、花が白色のものを基本種として花色が淡紅色のものを、変種モモイロヒルザキツキミソウ(var.childsii)として分ける場合(現行はシノニム)もあるそうです。国内でも本種の白花の報告があるので、どちらの花色のヒルザキツキミソウも、我が国に定着していると思われます。

しかし安城で観察した限りでは、本種の白花を見つけられませんでした。実際、道端で普通に見られる花色は淡紅色のようです。原産地のアメリカでも、平均的な花色はシェルピンクで、中央が白に変化し濃いピンクの縞模様になるそうで、安城で良く観察できる花(写真2#1)の特徴と大体同じでした。なので本種を花色で分けた時、マイナーな白色の方が基本種、メジャーな淡紅色の方が変種とされる、不思議な分類になっています。

ヒルザキツキミソウの生息状況

安城市のヒルザキツキミソウは、国道沿いの歩道脇の植込みでよく見られます。ツゲ植栽が枯れて空いたスペースに、ノースポールやビオラ、ムシトリナデシコ、ペチュニア、スイセン等と、ヒルザキツキミソウが混生している場所(写真9#1)があり、これら混生が、国道沿いに点々と続いています(写真9#2)。

植込みの混生は、人手による植栽が起点だと思いますが、大した手入れもなく放任状態で、何年も維持されています。ヒルザキツキミソウは、この混生内で優占し全体を覆う様に生えています(写真9#1)。本種は色味が良く園芸植物として魅力的ですが、庭などから逸出しやすくランナーや種子によって侵略的に広がる可能性があるようです。

ヒルザキツキミソウの繁殖について

ヒルザキツキミソウは、ランナーや種子によって生息場所を広げていくと言っても、この場合のランナーは、オリヅルランの様なものではなく、地下茎により広がって行く事だと思われます。本種の地下茎については、観察できていません。しかし縁石の隙間(写真1#1)や道路の割れ目(写真10#1)に定着したものは、ひとところに留まらず、隙間や割れ目に沿って広がっているため、先行して伸長した地下茎が入り込んでいるのだと思われます。

ヒルザキツキミソウの種子による繁殖ですが、今回の観察では結実した個体が見つかりませんでした。我が国では結実しにくいらしく、日本では結実しない(「山溪ハンディ図鑑1野に咲く花」増補改訂新版)と記載されていた事もあります。ただ、よく観察すると結実した個体も見つかるようで、国内でもこぼれ種による繁殖があるようです。

実際、植込みから逸出して車道ライン脇の割れ目に定着した群生(写真10#1)や、周囲にヒルザキツキミソウが見られない市民農園の休耕地に侵入して、かなりの部分を被覆する群生を観察することが出来ました(写真10#2)。これらは種子散布の結果、形成された群生だと考えられます。

帰化植物としてのヒルザキツキミソウ

安城においてヒルザキツキミソウは、定着した場所では草勢が強く辺りを覆うように育ち、また定着場所から逸出し、隣接環境への進出も盛んです。さらにある程度条件の良い場所に侵入するとかなり大きな群生を形成します。本種は、帰化植物としてかなりインパクトがあるように見受けられました。

調べたところ帰化植物としてのヒルザキツキミソウは、我が国に定着している外来植物として、認識されてはいるものの、特定外来生物ではなく、生態系被害防止外来種リストにも載っていませんでした。本種を観察時の、草勢強く派手で良く目立つ印象と違い、帰化植物としてそれほど脅威的では無いようです。因みに生息場所が被るコマツヨイグサは、生態系被害防止外来種リストに載っていて「重点対策外来種」のカテゴリになっていました。

マツヨイグサ属は、長い花托筒など互いによく似た形態を持ち、野生下でも種間交雑が容易なのだそうです。今回の観察では、生息場所の被った「ヒルザキツキミソウ」と「コマツヨイグサ」を比較しました。文献通り両者はよく似ていて草勢強く競争力も十分あるように見受けられました。

際立って異なった点は、良く実るコマツヨイグサ(写真5#2赤丸)に比べ、ヒルザキツキミソウは極端に実りが悪い(写真5#1黄丸)ことです。本種が種子散布により生息域を急拡大できない所が、外来種としていまいち警戒されない要因なのだと思います。

参考文献

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