路傍の花:シロバナタンポポ

草花

白いタンポポは珍しいでしょうか?関東圏に暮らしていた時は、まず見かけませんでした。越した先の安城市には、シロバナタンポポが生息していて、春先の道端には白いタンポポがありふれています。パッと見は、セイヨウタンポポに押され気味ですが、観察調査した限りでは、薄く広く生息することに特化して、上手く生き残っているしたたかな野草のようです。

基本情報

学名:Taraxacum albidum
和名:シロバナタンポポ<白花蒲公英>
分類:キク科 タンポポ属
分布:シロバナタンポポ(Taraxacum albidum)は、キク科タンポポ属の多年生草本。
日本在来種。本州(関東・北陸地方以西)、四国、九州に分布し、主に西日本に多く自生する。
形態:キク科タンポポ属の多年草。直根の多年生植物で、基本的に深く葉に覆われたロゼットを
形成し、そこから長く僅かに綿毛に覆われた、枝分かれしない中空の花茎が、約40cm程の
高さまで立ち上げる。葉は長さ15〜20cm、幅3〜7cmの披針形で、羽状に中〜深裂する。
他のタンポポ類より葉が斜めに立ち上がる傾向がある。また葉や総苞は淡緑色で、葉脈は白い。
 花は年に一度、通常は春(3~5月)に咲くが、晩秋に咲く事もある。花茎は、多数の
小さな白い舌状花からなる頭花を一つ付ける。頭花(花に見える部分全体)のサイズは
直径3.5~4.5cm程になる。白く見える部分は舌状花(頭花を構成する1つ1つの小さな花)
の花冠(花びらに見える部分)で、中央の花柱部は黄色である。舌状花は1つの頭花に最大
100個ほどで、他種と比べて比較的少ない。ゆえに結実する種子も比較的少ないが、
他の日本在来種のタンポポとは違い、5倍体で単為生殖が可能である。
 総苞は開花時には長さ約2cm。総苞外片は卵状長楕円形または卵形で、内片より短く、
上部には角状突起があって目立つ。在来のタンポポは総苞片が反り返らない特徴があるが、
シロバナタンポポでは、開花時の総苞片は反り返らないが、花の終わり頃は反り返ってくる
痩果は褐色で長さ約4mmの長楕円形。
 本種はカンサイタンポポを種子親とし、ケイリンシロタンポポを花粉親とする雑種起源で
あることが確認されている。他のタンポポより舌状花が少なく白色なので区別は容易である。
花期:3~5月
生息環境:道端、草地、空き地等、人家の近くに生える。三河地域では市街地に多く、豊橋市内の国道
沿いなどでよく見られる。人為的に持ち込まれた可能性もあるといわれている。
英名:white-flowering Japanese dandelion、Japanese dandelion
シノニム:Taraxacum albiflorumTaraxacum officinale var. albiflorum
品種名:
利用:タンポポの仲間の根を含めて全草を乾燥させたものが生薬「蒲公英」で、解毒、利尿、急性
乳腺炎、できもの、感冒による発熱など炎症性の疾患、健胃、強壮剤、利尿剤などにと幅広く
用いられる。タンポポ類の葉は、野菜として食用にできる。また、タンポポの花のテンプラは
美味しい。
表1:シロバナタンポポについて

観察記録

道路わきのシロバナタンポポ群落(写真1)。三河地域では豊橋市内の国道沿いに多く見られる様です。安城市内でも、群落と言えそうな目立った群生は、国道沿いの草地によく見られます。

写真1:春先の道端に咲くシロバナタンポポの群生、生息場所が重なるセイヨウタンポポに比べ疎らな印象 2021/3/27 安城市

シロバナタンポポの葉は、他のタンポポ類と同様、基本的にロゼットを形成し(写真1)、長さ15〜20cm、幅3〜7cmの披針形で、羽状に中〜深裂し、葉色は淡緑色で葉脈は白い (写真2#1~#3)。つまり、如何にもタンポポらしい形態の葉で、特に際立った特徴はありません。

ただシロバナタンポポは、他のタンポポに比べ、葉が斜めに立ち上がる傾向があり、観察場所で混生するセイヨウタンポポと比較しても、記載通り葉が立ち上がる性質が観察できました(写真3)。

シロバナタンポポの花は、通常は春(3~5月)に咲き、夏の休眠期を挟んで、晩秋に咲く事もあるそうです。安城市内のシロバナタンポポにも、この傾向が観察できました(写真4)。本種も他のタンポポと同様、多数の小さな白い舌状花※1からなる頭花※2を、花茎の先に一つ付けます(写真3)。

写真4の通り、晩秋の頭花は春のものより一回り小さく、舌状花も減少しています。

※用語について
  1. 舌状花:合弁花の一つ。花弁が数枚平行について舌状になっている舌状花冠をもつ花
  2. 頭花(頭状花序):無限花序の一つ。花軸が短縮して円盤状にひろがり、その上に多数の柄のない花を密につけたもの

シロバナタンポポの花茎は、ロゼットの中心辺りから根生し、発生初期の頃から総苞※1に包まれた頭花を、一つ付けます(写真5#1)。頭花が開花間近になると、総苞もよく発達し、内片(総苞の内側を構成する総苞片※2)は、2cm程に伸びて頭花を支えます(写真5#2)。頭花が満開時の総苞では、在来種には珍しく、外総苞片※3が反り返ります(写真5#3)。頭花が咲き終わると総苞が閉じて、花茎は地面に倒伏し始めます(写真5#4)。

枯れた舌状花が抜け落ちて(この時は、枯花の一片も残さず綺麗に抜け落ちます。ホントに不思議)、種子(痩果※4)と冠毛※5が発達した総苞(写真5#5)は、再び花茎を伸ばしながら立ち上がります(写真5#7中央最長の花茎)。そして、総苞が全開し綿帽子が出現する頃には、外総苞片は枯れて、続いて内片の順に枯れ上がっていきます(写真5#6)。

シロバナタンポポの果実は、痩果と言われ薄く乾いた果皮が、種子と一体になった形態です。本種は、在来種のタンポポとしては珍しく5倍体であり、主に単為生殖で増えるようです。そのためか、開花後の頭花は、大体結実しているように見受けられました(図6#1~#3)。

一般的にタンポポは、綿帽子段階で花茎が最長になるようですが、シロバナタンポポにも、同じ傾向が見られました(写真6#3,#4)。充実した株では、種子散布が終わり花托※6がむき出しになった状態で、花茎の長さが40cm程あり、株全体ではアンバランスな印象になります(写真6#4)

タンポポ類の各部位名称について

シロバナタンポポの各部位について、キク科植物向けの専門用語が多く、細かく使い分けている事もあり分かりにくい為、以下に植物本体と各種用語を紐付け、下図にまとめました(写真7)。

※用語について
  1. 総苞:花序のもとに多数の苞葉が密集したもの。タンポポなどキク科の頭状花序のものは顕著
  2. 総苞片:花序(かじょ=花の集まり)を保護する苞葉のこと総苞鱗片(そうほうりんぺん)とも
  3. 外総苞片:総苞のいちばん外側の総苞片。総苞外片とも
  4. 痩果小さな乾いた果実で、果皮は硬くて裂開せず、中に1種子をもっているもの
  5. 冠毛キク科植物などの痩果(そうか)の先端部に輪状に生じる毛状のもので、萼(がく)裂片の変形したもの
  6. 花托花床ともいう。花柄 (花をつける枝) の先端で,花の各部 (花葉) が着生する部分

考察

我が国のタンポポ類では、在来のタンポポと外来のセイヨウタンポポの間に競合があることが知られています。特に都市圏の市街地から郊外にかけての熾烈な競合の結果、定期的な撹乱が入る市街地では、セイヨウタンポポが優勢となり、季節により繁茂する他植物との競合が起こる郊外では、在来種タンポポが優勢となって住み分ける様相は、各都市で良く調査されています

愛知県でも在来種タンポポとセイヨウタンポポ(雑種性も含める)の名古屋圏の市街地から郊外にかけての分布調査が定期的に行われ(あいちの生物多様性モニタリング ハンドブック-⑨タンポポ地図)、前述の調査結果と同様になる事が知られています。このような生存競争の狭間で、シロバナタンポポは、在来種ながら単為生殖を行う独特な性質を生かし、市街地では国道沿いの草地に、郊外では果樹園の下や社寺林の周囲に分布が散見されるとの事。在来種タンポポとセイヨウタンポポの中間的な環境に生育しているようです。

安城市内でも、まとまった数が生えて群生になっている場所は、国道沿いの草地でした(写真8)。うまく写せていませんが、写真8では、写真上部から下部にかけて低くなる緩い傾斜がつき、土手の様になった地形を芝生にした場所で、管理が行き届かないのか、ニラやホトケノザ、コハコベ、カラスノエンドウ等の雑草でまばらに覆われています。

写真8:国道沿いの草地に咲くシロバナタンポポの群生、ニラやホトケノザやコハコベ等の立体的に繁茂する雑草と競合しながら、良く頭花を開花させ綿帽子を作って繁殖する。草が無い場所には、セイヨウタンポポ が他との競合を避ける様に進出している 2021/3/27 安城市

春先のシロバナタンポポは、これら雑草と競合します。斜め上に立ち上がる葉と開花時から背が高めの花茎により、ロゼットの形状は崩れつつも、他の雑草との競合に耐えて、頭花を開花させ、結実し、綿帽子を広げて種子散布までやり切ります(写真8)。その後6月頃には、姿が見えなくなる為、他の在来種タンポポと同様に休眠に入るのだと思われます。

一方、セイヨウタンポポも同じ場所に生えていますが、ニラやコハコベとの競合を避けるように、まだ芝生が残っている場所に生えます(写真8)。勿論、シロバナタンポポの優勢な場所は、上記のような土手状の緩やかな傾斜地のみのようです。土地が平らになり、頻繁に草刈り機が入る草地や歩道の周囲等では、セイヨウタンポポの方が圧倒的に優勢になります(写真8)。

観察地全体でみると、傾斜地のシロバナタンポポ群生は、セイヨウタンポポの群生に囲まれて、孤立しているように見受けられました。もしここにトウカイタンポポ等の他の在来種が入り込んで、優勢な一区画を作ることができても、自家不和合性が強い為、孤立した個体間の受粉では、早晩まともな種子形成ができなくなり、絶えてしまうと思われます。シロバナタンポポは、単為生殖が主体なので、セイヨウタンポポに囲まれ孤立した個体群でも、繁殖し世代をつないで行けるのだと考えられます。

参考文献

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