路傍の花:サフランモドキ

草花

サフランモドキは、前述のタマスダレと同様、安城市内でよく見かけるゼフィランサスです。本種は、畦道や土手よりも、軒先に放置されたプランターや花壇、街路樹の植え込み等に繁茂することが多いようです。開花期は、桃色の美しい花が沢山咲き、良く目立ちます。

基本情報

学名:Zephyranthes carinata
和名:サフランモドキ<番紅花擬き> 別名:レインリリー
分類:ヒガンバナ科 タマスダレ属
分布:メキシコ、グアテマラが原産。しかし、現在ではアメリカ合衆国南部からコスタリカ、
アンチル諸島、及び南アメリカの、それぞれ孤立した場所で見られるようになった。
南アメリカのサフランモドキは、植栽かそこから逸出して野生化したものである。
また、西インド諸島、ペルー、アルゼンチン、ブラジル、米国南東部のテキサスから
フロリダ、ジンバブエ、南アフリカ、中国、韓国、琉球諸島、アッサム、ネパール、
ブータン、スリランカ、ランカ、ソロモン諸島、クイーンズランド、ソシエテ諸島、
キリバス、カロリン諸島等で、観賞用として広く栽培され、帰化している。
日本でも、広く栽培されてきたが、暖地では逸出して野生化している地域もある。
形態:ヒガンバナ科(クロンキスト体系ではユリ科)タマスダレ属の球根草
地下に直径1〜3cmの卵型の鱗茎を持つ。葉は幅7mm程、長さ15~30cmの線状で
質は厚く、表側には浅い縦溝がある。全体に緑色だが、基部は紅色を帯び光沢がある。
春から秋にかけて、1個の鱗茎あたり7~10個程の葉を根生する。
花期は一般的に雨期の後になるが、湿潤な気候の地域では、始終開花する。日本では
普通、6~10月が開花期である。花茎は鱗茎1つにつき1個生じ、長さは30cm内外で、
先端に1花をつける。花の基部には膜質の苞があり、花柄の基部を取り巻いている。
花柄は苞より短い。花は子房下位で、外花被片3個、内花被片3個はいずれも、長楕円状
倒披針形で大きさ・形共に、ほぼ等しい。それらは全て中程から下では互いに合着して
花筒を形成し、それより先の部分では平らに開く。花径6cm前後あり、花被裂片は
鮮やかな桃色で、筒部は緑色を帯びる。雄しべは6個で、葯は線形で黄色、両端は尖る。
花糸に対してTの字に接続し、揺れることが出来る。雌しべは1個で白く柱頭は3裂する。
子房は緑色で光沢があり、3室からなる。
花期:6~10月
生息環境:現地では、開けた牧草地や丘の斜面によく見られる
英名:rosepink zephyr lily, pink rain lily
シノニム:Zephyranthes grandiflora, Amaryllis carinata, Atamosco carinata 他多数
品種名:
利用:観賞用に栽培され、花壇や鉢植え、グランドカバーなどに用いられる。半耐寒性で、日本でも
暖地では野外で越冬する。ゼフィランサス属は、全草が有毒なので取り扱い注意。
ゼフィランサスの若葉を掘り起こすと、根元にらっきょう状の鱗茎があり、これをノビルと
勘違いして食べてしまい、中毒になる。症状:吐き気、嘔吐 毒成分:リコリン( lycorine )
等のアルカロイド成分
表1:サフランモドキについて

観察記録

サフランモドキは、暖地では野生化している地域もあるそうです。名古屋よりは暖かい程度の安城市では、道端や畔よりも、軒先に放置されたプランターや花壇、植え込み等でよく見かけます(写真1)。本種も、タマスダレのように植えっ放しでよく育ち、手が掛からない草花のようです。が、安城に於いて人の栽培下から逸出して、道端や畔や草地に進出する気配は無いようです。

サフランモドキの葉は、幅7mm程、長さ15~30cmの平たい線状です。立ちあ上がらずに枝垂れて地表を覆う為、グランドカバーに向く形態と思われ、棒状の葉が立ち上がるタマスダレとは、大分違う印象です(写真2#3,#4)。本種は本来、常緑性らしいのですが、安城では個体差なのか、常緑の株と冬に葉が枯れ落ちる株がある様です。

常緑の株は、開花初期の6月頃に生え代わり、花期終盤の10月にかけて、葉数を増やしながら30cm程まで伸びます。葉の表側には浅い縦溝があり、全体は緑色で基部は赤味を帯びます(写真2#1~4)。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                         

サフランモドキの花は、鮮やかな桃色の花被片が6個、黄色の雄しべが6本、3裂した柱頭を持つと記載されます。本種の花は水平に大きく開き、花径は6cmを超え、各花被片の基部は合着して花筒を形成します(写真3#1,#2)。なので、前述のタマスダレの花より二回りくらい大きく見えます。

サフランモドキは、根元から真っ直ぐ伸びた花茎の先に一輪の花を付けます(写真3#2~#4)。花が大きいので枝垂れてしまいますが(写真3#2,#4)、これはタマスダレと同じ咲き方です。また、数は少ないですが、苞葉から先方が、屈曲して斜め前方を向いて咲く個体も、数例観察されました(写真3#5,#6)

概ね記載通りの花が咲くタマスダレに比べ、サフランモドキでは、変則的な開花形態が散見されました。まず花被片の数が、7個(通常6個)の個体を良く見かけます(写真4#1,#2)。それから、雌しべの柱頭が4裂以上(通常3裂)した個体もそこそこ観察されました(写真4#3,#4)。

また、2個体のみの観察ですが、葉に先駆けて花茎が伸び開花する例が見られました(写真4#5,#6)。写真通りの異様な草姿で、花茎が単体で伸長し葉の伸長が大幅に遅れ、一輪挿しの様になってます。

考察

サフランモドキは、同属のタマスダレに比べ、花も大きく色彩も鮮やかで、園芸植物としての要素が色濃いです。他方、本種はタマスダレと同様、軒先に放置されたプランターや花壇でも良く育ち、沢山花を咲かせる丈夫な草本という側面もあります(写真1#1,#3)。しかし、本種はタマスダレの様に草地や畦道など、より自然に近い環境への進出は見られませんでした。

このことは本種が半耐寒性で、同属のタマスダレに比べやや寒さに弱い為、耐寒性の違いによる差かと思われます。半耐寒性とは、園芸上の植物区分の一つだそうで、かっちりした基準は無いみたいです。ここでは無霜地帯では野外越冬が可能だが、冬季の降霜が普通な地域では、霜よけが必要な想定で考えています。因みに安城は、冬場は-5℃以下になる事もありますが、連日降霜するような冷え込みは滅多にない地域です。

写真5#1~#5は、安城市内でよく見かけた、半耐寒性(half-hardy)植物を集めたものです。概ね、サフランモドキを観察場所の、周囲1km程度で観察しました。※因みに、一番多く見られた、半耐寒性の草本は、フリージアでしたが、写真を撮り損ねて掲載できませんでした。

安城で野外に半耐寒性草本の植栽を見かける場所(写真5#1~#5)は、軒先やブロック塀や良く育った生垣など構造物のそばで、土質は砂礫まじりの荒れ地状態になっていることが多いです。一方、タマスダレ等が進出している畦道や道端(写真5#6)は、田畑に沿って設けられるため、開けていて腐植質の多い肥沃な土質であることが多いです。

安城で良く見かける写真5#1~#5に挙げた半耐寒性草本は、冬に葉を落とすか減らすかして、半休眠状態になる為、少々の降霜では大丈夫そうです。しかし、大寒頃の強い冷え込みでは、写真5#6のような場所は、霜柱が立ち土中まで凍て付くので、半耐寒性草本は枯死する可能性が高いと思われます。

一方、生息場所を限定されるとはいえ、軒先やブロック塀等の構造物の近くは、比較的暖かいうえ、砂礫の多い土質は水もよくはけて、ガチガチに凍り付く事も無く、冬越しは容易と思われます。同じ理由で、半耐寒性のサフランモドキも、狭い生息範囲内で繁茂するも、より分布拡大の見込める畦道や道端には、進出できないのだと思われます。

また、サフランモドキでは、似たような草姿で均質な花が咲くタマスダレに比べ、変則的な咲き方が良く観察されました(写真4)。ネット上の資料を調べた限りでは、サフランモドキの花被片の個数と雌しべの柱頭の分岐には一定の幅があるとの記載も幾つかありました。本種が、変則的な咲き方をするのは、特に珍しい事では無いようです。しかし、本種の変則的な咲き方に、何か意味があるのかについては、何も分かりませんでした。

サフランモドキに似た、ハブランサスについて

サフランモドキの写真を整理していて、花の色合いや咲き方に違和感のあるものが、数点見つかりました(写真6)。当時の写真を観察し直すと、サフランモドキによく似た近縁のハブランサス属の花だった為、別途、以下にまとめます。サフランモドキとハブランサス属の見分け方について解説した文献は沢山あり、写真を撮って見直せば、サフランモドキとの違いは歴然でした。

しかし、現場で観察した時は、気付かずに撮影してたので、後学の為、サフランモドキと、よく似たハブランサス (‘チェリーピンク’ またはロブストス)との相違点について、以下にまとめました。

ハブランサスとサフランモドキの相違点
  1. 雄しべ:4~6個と幅があり、葯は湾曲して不均等 ⇔ サフランモドキは6個で、均等な葯を持つ
  2. 花の付き方:花茎の前方が屈曲し斜め上向きに花を咲かせる ⇔ サフランモドキは真っ直ぐ伸びた花茎の先に花を咲かせる事が多い
  3. 花被片の形状:一部が反ったり委縮し、不揃いな花被片になる事が多い ⇔ サフランモドキは均一な花被片を付けることが多い

参考文献

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