ご近所の草地にニラっぽい臭みのある、綺麗な白い花が群生していました。勝手にニラに似た雑草のハタケニラだと思ってました。が、改めて調べると、普通にニラそのものでした。へぇ、今度詳しく見てみようと思っていた矢先、先日の除草作業で、一斉に刈り取られ跡形もなくなりました。先月、今月の写真を辿って、これに10月の実り情報を加味して、記録だけでも残しておきます。
基本情報
学名: | Allium tuberosum (A.tataricum を使うべきとする意見もあるらしい) |
和名: | ニラ<韮> |
分類: | ヒガンバナ科 ネギ属 |
分布: | ニラ(A.tuberosum)は、シベリア~モンゴル~中国北部の草原が、原産とされる多年生草本。 米国内でも広く栽培され帰化している。米国各地(イリノイ、ミシガン、オハイオ、ネブラ スカ、アラバマ、アイオワ、アーカンソー、ウィスコンシン)に自生していると報告がある。 しかし、ニラの種子や苗は、エキゾチックハーブとして入手可能であり、その高い攻撃性 (侵略性?)の為、北米のもっと広域に普及していると考えられている。本種はまた、 ヨーロッパ本土の多くに広まっており、世界の他地域にも侵入している。 ※Wikipedia英語版より その他、ニラはインド、パキスタン、中国、日本等に自生するといわれるが、日本のものが 在来種か、栽培されていたものが、野生化したのか、はっきりしない(山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花より) 或いは、ニラの原種は、中国北部からモンゴル~シベリアに自生する A.ramosum で、 3,000年以上前に栽培化されたとされ、A.ramosum とニラを同一種とする場合もある。 ※Wikipedia日本版より 等々、諸説入り乱れており、野菜か?野草か?ハッキリしない。 |
形態: | ヒガンバナ科ネギ属の多年草。緑黄色野菜として扱われ、広く畑に栽培されている。 地下には、横に連なった小さな鱗茎を持つ。食用とする葉は線形、偏平で濃緑色、葉の間から 30~40cm程の、1本の花茎を伸ばす。花茎の先端に、半球形の散形花序をつけ、径6~7mmの 白い小さな花を、20~40個咲かせる。花は平開し、花被片は6個、長さ5~6mmの狭長楕円形で 先はとがり、基部は合着する。雄しべは6個で花外に突き出る。子房は3室に分かれている。 果実は長さ5mm程の蒴果で、長さ3~4mmの黒色の種子を6個つける。 花期:8月~9月 |
生息環境: | ニラを野菜と捉えれば、日本各地の畑地、土手、畦などに植栽され、そこから逸出して道端、 河原等に生息する。ニラは多湿を嫌うため、堆肥などを多くすき込んだ、水はけのよい 土地に植えられる。 |
英名: | Oriental garlic、Chinese chives |
シノニム: | Allium angulosum、Allium argyi、Allium chinense 他多数 |
品種名: | タフボーイ、きぬみどり、なかみどり 他多数(普通に緑黄色野菜です) |
利用: | 中国では薬膳に、日本でも薬用に使われるなど、古くから親しまれてきた緑黄色野菜で、 β-カロテンの含有量が高く、疲労回復や健康増進にも効果があるとされ、炒め物や卵とじ等、 様々なスタミナ料理に利用されている。 |
観察記録
以上の様にニラは、野菜と野草の境界がいまいち曖昧な草本です。安城では普通に雑草として、草地や道端のあちこちで見られます。9月初旬の道端には、一斉にニラの花茎が立ち上がり、真っ白な花が咲き揃ってきます(写真1)。
ニラの葉は、線形・偏平で濃緑色が特徴とされ、スーパーで売ってるニラ束パックの見た目、そのまんまの草姿です。艶消し緑の細長く、平べったい根生葉を多数付けます(写真2#1,#2)。平たく細長い葉は、そこそこ固く、根元からある程度、真っ直ぐ立ち上がってから(写真2#3)周囲にバランスよく垂れ下がります(写真2#1,#3)。
途中まで真っ直ぐ伸びてから周辺に垂れる(写真2#2)性質は、密生するのに都合よいと思われます。叢生するニラ葉を見ると、途中まで真っ直ぐ伸びることで密集が可能になり、途中から周囲に垂れさがる事で、周囲の草を効果的に覆って、競争を有利に進めているように見受けられます(写真2#3)。
ニラの花は、葉の間から30~40cm程伸びた花茎(写真2#1,#2)の先端に、半球形の散形花序をつけ、白い花が固まって咲くと、文献にあります。道端で見かけたニラの花も、まんまその通り咲いていました(写真3)。ニラの花序は周辺から咲き始め、中心に向けて咲きあがる傾向が観察できました。
#1:ニラの花は、一斉に伸びる花茎の先端に着く #2:花茎の先端に、半球形の散形花序を形成し、白い花が固まって咲く
個々のニラの花「6個の花被片、6本の雄しべ、子房上位」と、ユリ科草本の特徴に則った形態
個々のニラの花を見ても、花被片は6個で平開し、長さ5~6mmの狭長楕円形で先はとがり、基部は合着し、子房は3室に分かれ、雄しべは6個と各花の細部を見ても、文献通りの均質な形態を保ち、一斉に開花していました(写真4)。
ニラの花は、開花したら大体結実しているように思えます。ニラは、一花序あたり20~40輪の花を着けると、記載があります。9月下旬の開花期を終えた、ニラの花序をざっくり観察する限り、少なくとも開花した花の半数以上は、結実しているように見受けられました(図5#1~#3)。結実した蒴果の大半は、順調に熟して種子散布に至ると思われます(図5#3,#4)。
#1:開花終わり頃の花序 #2:周辺から中心へ向けて咲くのが典型的な咲きかた #3:開花を終えた花序。良く結実している #4:蒴果が裂開し、種子散布が進んだ花序
ニラの実は、長さ5mm程の蒴果で、長さ3~4mmの黒色の種子を、6個つけると記載されます。安城の道端に野生するニラも、記載通り3室に分かれた蒴果が結実します(写真6)。そして種子が熟すと、各室2粒づつ種子を着けた蒴果が裂開し(写真6#2)長さ3~4mmの黒色種子が、散布されました(写真6#3)。以上、道端の数十株を目視しただけでも、ニラは、相当均質な形質を持つ植物と思われます。
#1:熟して裂開が始まった蒴果(内部は3室に分かれる) #2:裂開した蒴果(3裂して各室2粒づつ種を着ける) #3:ほぼ種子散布を終えた花序。各蒴果内は3室に分かれ、長さ3~4mmの黒色種子が残る
考察
以上、8~10月のニラを観察した限りでは、その場を覆い生息地を優占する、強力な雑草でした(写真1,7)。野草としてのニラは、環境や農業に悪影響を及ぼす、雑草としてマークされているのではないか?疑問に思って調べてみました。日本では、近縁のハタケニラ(Nothoscordum gracile)が、侵入種として急速に勢力を拡大して警戒されているようで、雑草としてのニラに対する言及は無いようです。
ざっと見た限り海外では、オーストラリアからニラを、危険な侵入種と扱う報告があるようです。CRC(Cooperative Research Centre) for Australian Weed Management(オーストラリア雑草管理共同研究センター?)という所から出ている「The introduced flora of Australia and its weed status」と言うレポートの中で「栽培場所から逸出した雑草」「侵入種:急速に広がり単一群落を形成して、深刻な影響が大きい、環境的あるいは農業的雑草」と判定されているようです。
野菜としてのニラは、一般に※1四倍体(2n=32)の栽培種と見なされています。しかも、受精しなくても種子ができる※2単為生殖で、親と同じ形質を持つ種子ができるのだとか。少し詳しく調べると、ニラの多くの品種・系統は四倍体であり、かつ高頻度の※3アポミクシス性を示す為、交配しても数%の個体にしか父親(花粉親)の遺伝子が伝わらず、残りの個体は母親と全く同じ遺伝子型となる様です。
以上ニラの繁殖様式を踏まえると、道端のニラが、一斉に花茎を立ち上げ、一斉に開花を始めて、高確率で結実し、均質な蒴果を着け順調に成熟し、一斉に裂開して、均質な種子を散布し始めるのも、クローン個体が群生してるんだから、当然そうなるよなぁと、納得できました。
参考文献
- 「山溪ハンディ図鑑1 野に咲く花」、監修/林 弥栄、写真/平野 隆久、山と溪谷社、1989年、425頁
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「“Allium tuberosum” BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)2021年9月30日閲覧
- Wikipedia英語版、”Allium tuberosum” 2021年9月30日閲覧
- Wikipedia日本版、”ニラ” 2021年9月30日閲覧
- mirusiru.jp(2016-)”ニラ” 2021年9月30日閲覧
- いちらん屋(一覧屋)(2007-)「ニラ(にら・韮・韭)の品種と種類の一覧」2021年9月30日閲覧
- (株)朝日新聞「コトバンク」”散形花序” 2021年9月30日閲覧
- 国立環境研究所「侵入生物データベース」”ハタケニラ” 2021年9月30日閲覧
- Randall,RP(2007). The introduced flora of Australia and its weed status(PDF). Australian Weed Management, University of Adelaide. 2021年9月30日閲覧
- “Chinese Chives” Encyclopedia of Life (EOL) 2021年9月30日閲覧
- 木嶋 利男 自然農法 vol.72 2015.3 4「寄稿 自家採種のすすめ」p9 2021年9月30日閲覧
- 山下謙一郎 国立研究開発法人 農研機構「ニラのアポミクシスを構成する複相大胞子形成と単為発生の遺伝様式」2021年9月30日閲覧
- 生井 潔 日本ジェネティクス株式会社 アプリケーションノート「【お客様事例】ニラ単為生殖性識別DNAマーカーの検出」2021年9月30日閲覧
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